思い通りに写真を撮りたい

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ア・デイ・イン・ザ・ライフ 

MPSレーベル MELLOW MOODよりオスカーピータソンのサマータイム



ア・デイ・イン・ザ・ライフ
 
 男三人が伏せて置かれてるU字溝
に座った。
 梶山が水筒をラッパ飲みし、デブ二人に挟まれて、暑いのがよけい暑いといった。
「そういうなって。俺たち、痩せるためにラグビー部入ったんだぜ。それもおまえが入れって頼んだからだ」
 そういう宮崎がしたたり落ちる汗をタオルで拭き、梶山と同じように水筒をラッパ飲みした。もう一人の安達は宮崎より太ってて九〇キロを超す巨漢だった。その彼がこの三日で五キロやせたという。朝八時からグラウンドを十周し股割りや腹筋をこなし、その後セービングやランニングパスをする。三人ではスクラムを組めないので、先輩に朝練しようと声をかても、炎天下にそんなことはごめんだと断られてた。一年生の部員は彼ら三人しかいないし、二年三年生を合わせても十五人きり。それで試合のときは、バスケット部やバレー部から臨時部員を募るという弱小ラグビー部だった。
 梶山は小学校時代夏木陽介の青春ドラマ「青春とはなんだ」を見ていらいラグビーに憧れてたが、中学にはラグビー部はなく、高校生になってようやくラグビーができると喜んだが、そういうチーム状態だった。夏休みだというのに部の練習はなく、それで太っててまともに走ったところで、女子よりも遅い宮崎と安達の二人に自主練習をしようといってはじめ、今日はその四日目だった。その練習といってもほとんどが走り込みだし、三人ではランニングパスをしてもすぐまた自分のところにボールがもどってきてしまい、ふだん五人ほどでするときと比べると数倍疲れる。
 それなのに安達は七十キロまで体重を落とすと頑張ってるし、宮崎は速く走りたいと弱音を吐かない。梶山といえば自分で練習しようといっておきながら、クラスの片山敦子に思いを寄せられてて、今日も練習を終えたあと彼女の家に行くことになっててそちらに気がせいてた。
「今日は三十三度なるっていうし、これでやめよう」
 風がそよともしないなか、グラウンドには陽炎が立ってた。
「明日もあるし、やめるか」
 宮崎がそういうと安達もうなずいた。それで三人が立ち上がったU字溝は汗で濡れてたし、玉の汗が落ちたじめんはあちこち黒ずんでた。

 練習を終えた梶山は片山敦子の家に行くにはまだ早いと、自由が丘へ行った。改札口脇にあるミルクスタンドでホットドッグを食べ、ファイブスポットではアイスコーヒーを頼んだ。地下の薄暗い店内でジャズを聴きながら、ギンガミチェックのシャツから取り出したハイライトを吸うと、頭がくらくらしてくる。それに流れてるレコードのダイナミックなピアノが追い打ちをかけるようで、彼の体を痺れさせるようだった。
 ボーイが水を注ぎに来たのでなんという曲か聞くと、オスカー・ピーターソンのサマータイムだと教えてくれた。そういえば友人のところで聴いたジャニス・ジョップリンが歌ってたのと似てるメロディーっだった。アレンジでこうも変わるのかと驚くが、しばらくして流れた曲も素晴らしく、それが同じくオスカー・ピーターソンのニカの夢だった。アルバムタイトルも知り、東急プラザにあるレコード屋で同じのを買い込んだ。

 片山敦子が母と一緒に冷麦を食べたのを片付けてるところに梶山が訪ねて来た。
「いらっしゃい。お昼食べたの?」
 そういう母に敦子が冷麦を食べるか聞いた。
「せっかくだけど、さっきホットドッグ食べたから」
 梶山がそういうと、敦子の母はおなかすいたら遠慮なく敦子にいってねといって出掛けて行った。
「おばさん。いつ見ても綺麗だ」
「お母さん聞いたら、喜ぶ。それよりさ、宮崎君と安達君、よく続くよね」
「女より走るの遅いんじゃ、しょうがないだろう」
「皆いつやめるかっていってる」
 笑いながらいう敦子に、片山も皆と一緒にあいつらがいつ根あげるか楽しんでるのかと目を向けた。
「そうじゃないけどさ、ラグビーってタイプじゃないからね」
「人それぞれ夢がある。あいつらは痩せたいってはじめたけど、今じゃそれなりに走るの早くなってる。秋か冬には、こっちよりタフになってるんじゃないか」
 梶山は痩せてて走るのは早いが体力がなかった。
「こっちなんか、息切れしてばかりだ」
「タバコ吸うからじゃん。やめなよ」
「キスしてくれたらやめるけどな」
「エッチ」
 そういう敦子だが目を閉じさせた梶山の額にちゅっとキスした。
「口にだよ」
 あまえん坊なんだからという敦子の唇が口に合わさった。

 春の校外学習で箱根へ行った帰り、バスの席は行きと違い気の合う者同士が座ってた。いちばん後ろに陣取った梶山の隣に、敦子が中学のときから一緒だった由紀と座った。それでいろんな話をしてたが、梶山は眠くなって敦子の肩にもたれかかってた。それを由紀が膝枕させてあげたらと敦子にいった。敦子は梶山といつも同じ電車に乗って通学してたし、それで彼のことをなんとなく好意を持ってた。というのもほかの男子生徒に比べて大人びてたし、勉強ができるだけでなく運動神経がいいし、それにたまにぼそっという冗談が面白いからだった。それに学生服のズボンをボンタンにしないし、それどころかアイビーのようにスリムにしダブルステムの裾にしてるのが洒落てて、顔つきにしてもハンサムだった。
 その梶山を膝枕させるとよく寝て、大人っぽく感じてたのが子供のように幼く見えた。そういうギャップもまた魅力で、母が彼のことを好きなのかと聞き返事に詰まったが、礼儀正しくて恰好いいしいいじゃないという。母が煙草をきらし梶山に一本恵んでもらうと、帰りに買うからどうぞと箱ごとあげてた。そんなことで母は梶山のことを気の利く少年だといってた。敦子が高校生でタバコ吸ってどこがいい少年なのかと反論しても、母にしても高校生のとき吸いはじめたと笑う始末だった。それで母と梶山は気が合うようで、敦子が留守にしてても梶山が部屋にいることがあった。

 敦子は梶山が買ったばかりだというレコードを聴き、ジャズがどういうものか初めて知った。
「よくさぁ、フィーリングとかっていうけど、そんな感じ」
「なんか、勝手に体がスウィングするんだ」
 その梶山が膝を手でたたいてリズムをとってた。
「ジャズって、メロディーなんども繰り返すけど、それがいろんなアレンジされてるのに、いつの間にかイントロと同じ感じにもどってて、それが凄くいいんだ」
 梶山自身ジャズを聴きはじめて間がないし、ジャズのレコードを買ったのは今日が初めてだった。それでも敦子に知ったかぶりでそんなことを話した。

 梶山が帰ると入れ替わるように姉が帰って来た。
「お母さんは?」
「踊りの練習行ってる」
「じゃ、梶山君と二人きりだったの?」
「そうよ。どうして?」
 敦子は子どもで梶山君じゃ相手しないわよねという姉に、なによとむくれた。
「それとも、エッチしたの?」
「キスしたし、おっぱいもまれた」
「で、Cまでいったの?」
「やーね。いくら兄弟だからって、そこまで聞く?」
「梶山君。彼、童貞じゃないと思うな」
「そんなこと、どっちでもいいじゃない」
 敦子がおっぱいもまれたというのは、梶山がレコードを聴いてるうち膝でリズムをとってたが、敦子の背後からバストをつかみ、ピアノの音の強弱に合わせてもんだのであり、セックスでいう愛撫とは違う。それでも敦子は姉にセックスしたかのような思わせぶりでいった。大学生の姉に対抗意識を持つわけでないが、友達同士でセックスのことを話してるとバージンを卒業したのが何人かいたし、自分もそろそろいいのではという思いがあるからだった。それでもふんぎりがつかないまま梶山とつきあってた。


 安達は見事に七十キロまで体重を落とし、入学した春とは見違えるほど顔が小さくなってた。引き締まった体は筋肉質にになってたし、
鈍足だった宮崎も尻から太腿が馬のようになり、梶山を追い抜くようになってた。それでも部員が十五人では練習試合もできず、OBたちが集まって相手をしてくれることになった。なかには五十過ぎとか六十ちかいのがいるが、それでも昔取った杵柄で高校生など及びもしないプレーを見せた

「一年。おまえら初めての試合だろう。こんな老いぼれ連中にに負けて悔しいだろうが、ま、キャリアの差だ。それにここは年々女子の比率が高くなって、ラグビー部の存続が危うくなってる。おまえらの代で廃部なんてことならないよう、頑張ってくれ」
 そういうOBたちを見送った在校生たちが三々五々更衣室へひきあげて行くなか、梶山がグラウンドを走り出した。安達と宮崎もそれに続き、試合を終えたばかりで足元がふらついてるというのに、日が傾きかけ足元が薄暗いなか走り続けた。
「無理につきあわなくていい」
「いつかまた、試合できるように走るだけだ」
 そういう声もとぎれがちな三人が足を止めたのは、西の空が夕日に染まってからだった。梶山は帰りがけ自動販売機で、八十円のハイライトを買うのに二十円足らず安達から借りた。
「タバコ吸うと息切れするぞ」
「たまに吸うだけだし、関係ない」
 そうはいうものの一日七本ぐらい吸ってた。とくに起き抜けに吸うと頭がくらくらし、それが快感になってた。なかにはシンナー遊びしてるのもいるが、あれをやったら中毒になる。タバコならそんな心配ないしいいだろうと、暗に安達に同意を求める梶山だった。

 
 梶山はファイブスポットで知り合った短大生青木洋子とトップのオムレツケーキを食べてた。
「美味しい」
「よかった。あたしの分も食べて」
 洋子がフォークで食べかけの部分を切ったのを口にすると、残りを梶山に向けた。それをたいらあげた梶山がレジで会計をすませた。
「高校生に払わせちゃ悪いわね」
 そういう洋子だが、梶山はこないだの誕生日にレコードプレゼントしてくれたからといった。
「気に入ってくれた?」
「フランシス・レイ、中学のときグルノーブルオリンピックの白い恋人たち見て、いっぺんに好きになってたし。男と女見てないけど、そのうち自由が丘劇場でやるだろうし……」
「そのとき見てね。いい映画だから」
 洋子は梶山に大人の恋愛がわかるかどうか知らないが、男と女の映画のレコードをプレゼントしてた。それで映画について少しばかり話し、主人公がホテルのバーで酒を頼むのに、ボーイについでに部屋もというくだりがいかにもフランス映画らしいと説明した。
「エスプリきいてるでしょう」
 エスプリという意味が分からない梶山は、肩がふれるほど寄り添って歩く洋子の化粧のあまったるい匂いにくらくらしてた。
「男と女のパンフレットあるから来る?」
 アパートがすぐそこだという洋子が寄って行かないかといってる。
「おいでよ」
 
腕を組まれた梶山がえっという思いで葉子にひっぱられるようについて行く。
「寒いし、ホットウイスキー作ってあげる」
 ウイスキーは苦いから好きじゃないという梶山に、ジンライムもあるからと葉子の目が笑った。
 洋子が初めて
梶山と会ったのはファイブスポットで相席になったからだった。そのとき彼はコーヒーを飲んでたが、葉子が飲んでるジンライムをバスクリンみたいな色だといって笑わせた。洋子が飲んでみるというと、あまくて美味しいという。それに間接キスしちゃったとほころばせるように笑った顔が、少年らしい初々しさがあった。洋子はつきあってた男と別れたばかりだったし、梶山の純真さに惹かれた。それでバイト先の食堂へ呼んでは、オムライスやチャーハンをご馳走してた。
「寒いからさ、おでん作ろうか」
「それがいい」
 こんにゃくと餃子巻が好きだという。
「あたしははんぺん。ふわっとしたのが好き」
 そんな二人がおでんの下ごしらえをし、あとは煮るだけとなった。
 ストーブのない部屋はコタツがあり、梶山が座ると葉子が寒いといって彼の後ろから抱きついた。
 梶山は化粧の匂いにむせ返りそうになった。その彼に大丈夫といって水を飲ませた洋子がキスした。
「震えてる」
「寒くて……」
「悪い女だよね……」
 えっと聞き返す梶山が振り向いた。その彼にまたキスした。
「おかしくなりそうだ」
「おかしくなって」
 敦子には冗談でおっぱいもんだりキスしてるが、年上の洋子には晩生な梶山だった。
「あたし、クリスマスすぎたら実家に帰るの。お正月終わっても、一月末にならないと帰って来ないわよ」
 それなら送って行くという梶山に、鈍感ねといいたくなるがまたキスした。


 冬休みになったが、梶山は相変わらずグラウンドを走り続けてる。洋子のことが絶えず頭にあり、それが煩悩となってるのを振り払いたいからだった。そんな梶山をハンドボールクラブの練習をしてる敦子が見てた。昼のサイレンが鳴ると、皆がボールや用具を片付け始めた。それで柔軟体操を終えると、皆グラウンドを去って行った。それで敦子が梶山に、帰ろうよと大声でいった。それなのに
先に帰れと手を振ってる。
<このごろ一緒になってもあまり話さないし、どうかしてる>
 そんな敦子が梶山に手を振りながら更衣室へ向かった。

 梶山が自分の部屋でレコードを聴いてると、もう少しボリュームを小さくしてくれと階下の母にいわれた。天井が響いてしょうがないらしい。
 近所の子供たちを集め宿題を教えてる、家庭教師のようなバイト代で買った山水のアンプが三十センチのバススピーカーを鳴らし、それが床においたブロックを通じて母の部屋へ振動してる。これまで何度もうるさいと文句をいわれてたが、もやもやした気分を晴らすのにジョン・コルトレーンやアート・ブレーキー、それにピンクフロイドなどを聞いてた。それでもそろそろ青木洋子が実家へ帰るのを送る時間が近づいてて、ステレオのスイッチを切った。
「友達のところ行ってくる」
「こんな晩いのに、相手が迷惑しないの?」
 平気だといってスニーカーをはき駅へ向かった。

 梶山が自由が丘に着いたのは十時を少しまわってた。洋子が日比谷線のホームのベンチでこっちよと手を振った。
「本当に来てくれたのね。寒いのに、有難う」
「しばらく会えないし……」
「お母さんが見合いしろっていってるの」
 洋子は来年短大を卒業するが就職活動をしてなかった。実家は昔ながらの洋食屋をしてて、それを手伝いながら見合い結婚でもしようと思ってるからだった。
「そう……」
 日比谷線が上の駅に着いても、洋子が乗る高崎行きが発射するまで一時間近くあった。それでも梶山が見送るというので、洋子は彼を聚楽へ連れて行った。
「ここのチキンバスケット好きなんだ」
 上野公園行く階段わきにある聚楽は和洋中なんでもメニューがそろってたが、洋子はチキンバスケットにサンドイッチという取り合わせをよく頼んでた。梶山もチキンバスケットがお気に入りだったし、それにジンフィズを頼んだ。それを飲んでると体が熱くなって毛糸の帽子をとった。
「あら。どうしたの?」
「え?」
 頭の毛が短くなってることをいわれた梶山が、一月半ばにラグビーの試合があるので正月も走りこむのでといった。
「そう……応援しに行きたいけど……あたしが行ったんじゃおかしいわよね」
 来てくれるのは嬉しいが、まわりからなにをいわれるかわからない。万が一顧問や担任に洋子の存在がわかれば親が呼ばれるだろう。それより、片山敦子を悲しませたくなかった。

 国鉄の信越線と上越線のホームへ行くとスキー板を担いだのが次々と列車に乗り込んで行くが発車まで十分ほどあるので、梶山はまだ開いてる売店へ行き女性週刊誌二冊を買って洋子に渡した。
「気が利くわね」
「なか行かないと座れなくなる」
「いいわよ。梶山君見送ってくれるんだから」
 発車ベルが鳴りだしたが、洋子は梶山の手をにぎったままデッキにいる。その彼女に来月帰ってきたら電話するからというと、ベルが鳴りやんだ。それでも洋子は梶山の手をはなさず、一緒に来てと引っ張った。梶山はゆっくり動き出すデッキに駈け上がった。洋子がデッキのドアを閉め梶山を抱きしめた。唇を合わされた梶山の口のなかでチキンバスケットの生姜とニンニクの味がひろがっていった。 洋子はそれでも梶山をきつく抱きしめてた。


 正月が明けるとグラウンドは霜柱が立ってた。そこを走ると滑りそうになるのはいいが、セービングをすると体中泥だらけになった。それでも梶山は、主将がいいというまでセービングを続けた。練習が終わると髪の毛に泥がこびりつき、シャワーで洗ってもなかなか汚れが落ちない。いぜんなら頭を洗いドライヤーで乾かした後バイタリスをつけてたが、スポーツ刈りにしてる今その手間がない。それでも風呂なしのシャワーだけで外に出ると、寒さのあまり体が震えた。
 背中をまるめ体をすくめて歩いてると、敦子の声がした。
「震えてる」
「風呂あればいいけどシャワーだけだし」
 公立高校にクラブのために風呂があるなど聞いたことがないが、私立高ならあるらしい。それで練習後銭湯によく行ってたが、それでも泥だらけのまま行くことなどできず、シャワーでかるく泥を落としてからだった。敦子にしてもたまに先輩部員に誘われて入浴して帰ることがあった。
「このままじゃ風邪ひくし、タクシーで帰ろう」
 がちがち歯を鳴らしてる梶山を見かねた敦子がそういった。彼女の提案に反対する気ないし、帰ってすぐ寝たかった。正月の四日じゃ医者も開いてないだろうし、風呂で暖まって寝るしかなかった。

 新学期が始まるまで梶山は風邪で寝込んでたが、それでもラグビーの練習をしてた。宮崎と安達にはさまれたフッカーの梶山は二人の強靭な体に支えられながらスクラムを進めて行く。
「梶山。体浮いてんじゃねーか。腰もっと落として、踏ん張れ」
 そういう檄に梶山は、右に左に揺れ動くスクラムに耐えながら前進しようとしてる。歯をくいしばってる彼の目に浮かんでるのは、青木洋子でも片山敦子でもない。去年六月亡くなった父親の顔だった。彼の父親は勤務先で社会人ラグビーに参加してた。それが事故で突然亡くなったが、生前からラグビーは一人じゃなくチーム全体の和が大事だとよくいってた。だからこそ入部したとき、どうしょうもない安達と宮崎と一緒に走り込みばかりしてた。その二人が自分を押しつぶしそうな重力で支えてくれてる。
「アンパン」
 饅頭が左でアンパンは右という暗号だった。それで脛の下のボールを右後ろへ蹴り出した。と同時にロックがはなれ、スクラムからラインに変わって行った。ナンバー8からフルバックまで綺麗にパスがいきわたってゴールまで近づいてた。
「その調子だ。もう一回。ラストだ」
 主将の声に皆がお~っと勝ち鬨を上げた。

 他校との試合はものの見事に負けた。それでも梶山はできるだけのことをして悔いがなかった。それが期末試験が終わり三年生を送り出す卒業試合のときは、涙があふれてしかたなかった。決していい先輩ばかりでなかったが、彼らが着古したユニフォームを脱いで空高く舞い上げると、胸が熱くなってた。その熱き思いも春休みになるとともに薄れて行った。

 梶山は忘れてはいなかったが、青木洋子へようやく電話する気になった。すると、懐かしい声で覚えててくれたのねといわれ、自由が丘で会った。
「電話なかったから、嫌われたのかなって……」
「試合あったし、そのあとは試験勉強とかで……」
「そうよね。この時期はなにかと忙しいもの」
 年末高崎へ帰るのに見送ってくれた梶山が列車に飛び乗ったものの、大宮で降りてしまった。それきり会うことも電話で話すこともないままだった。洋子にすれば今月いっぱいでアパートを出て行くし、純情な高校生との淡い恋もそれで終るものと思ってた。それなのに、男にしてくれという。
「あたしでいいの?」
「青木さんのこと、好きだから」
「有難う」
 カーテンを閉めた洋子が梶山を抱きしめた。


 敦子の頬が桜のように色づいてた。二年なったら組替えだけど、一緒だといいねと梶山に寄り添った。
「ずっと一緒だ。結婚するまで」
 バージンを卒業させてくれた梶山がそういってキスしてきた。
「タバコ臭い」
 洋子とのキスはチキンバスケットの味がした。
「キスがレモンの味なんていうのは、子供のいうことだ」
「大人ぶったって同い年じゃない」
 たしかに同い年だが、俺は男だと胸を張る梶山だった。
 ホテルのBGMがウエス・モンゴメリーのア・デイ・イン・ザ・ライフを流してた。
 生涯の一日。
 梶山はウエス・モンゴメリーのギターが奏でるオクターブ奏法に。俺にしたら生涯の二日目だとにやけた。

              
ア・デイ・イン・ザ・ライフ 了

昭和45年前後の高校時代。
私は自由が丘にあったジャズ喫茶ファイブスポットへよく出入りしてました。
そこには日野照正やレイ・チャールズがゲスト出演したり、ほかにも著名なプレーヤーがかなり来てました。
そこのハウスバンドに鈴木勲がいて、ゲストがいない日は彼のバンドが生演奏をしてました。
そのファイブスポットがジャズ喫茶からジャズクラブへ、そして中華料理屋へと変わっていくとき、フュージョンギターの第一人者として脚光を浴びてた渡辺香津美も来てました。
鈴木勲と渡辺香津美の二人が一緒にプレーするのを目の当たりににするとは思ってなかったのが、一昨日錦糸公園でライブをしてるのを見に行きました。
当時と様相の違う両氏に唖然となりましたが、高校時代足繁く通ってたファイブスポットのことが懐かしく蘇ってきました。
そんなことを小説として書いてみましたが、校閲する間もなく記事にしてます。
ま、皆さん似たような思いでがあり、ニヤッとしてる方もいるのでは~
敬称は略させていただきました。

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テーマ: オリジナル小説 | ジャンル: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 4 | edit

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この記事に対するコメント

じっくり読ませていただきましたよ〜。
懐かしいジャズとなんだか懐かしい匂いのする小説。すごいですね!
帰ってからまたじっくり読ませてもらいます。
オスカー・ピーターソン、うちの連れ合いが大好きなんですよ。
つられて私も聴くようになりました♪

meriko #- | URL | 2014/08/21 17:12 * edit *

merikoさんへ
ご主人ピーターソンのファンだとは嬉しいです。
なにを隠そうこの小説の登場人物青木洋子にピーターソンはいいよと勧められ、それでジャズに傾倒していったものです。
いぜん書いたものはあまりに長すぎるのでかなり端折って書き直ししたんですが、物足りないというかちぐはぐさが先立ってしまいました。
人物描写が甘すぎますね・・・

freecat2828 #hdScUxTA | URL | 2014/08/21 19:56 * edit *

ウマい!青春ですね。
それにしても羨ましい。
やはり東京の子は早熟なんでしょうね…
男の子はこうやって大人の階段を上って行くんですね。
教育実習をした時、ちょっとやんちゃな男子生徒二人が家に2度遊びに来て楽しそうにしていて可愛かったのを思い出しましたよ。彼等の憧れの感情は感じてましたが、未経験の私にはこういう事を考えるまでに至らなかったのは勿体なかったなあ… (笑) 中学生相手には無理ですが…
チキンバスケット好きでしたね。銀座のキャンドルのチキンバスケットが好きで何度か行きましたよ。
ファイブスポット、思い出の場所です。自由が丘はよく行きましたから…

実はウエスの二カズドリームをアップしようと考えてました。

しかし、面白いです。ウマいなあ…

carmenc #- | URL | 2014/11/07 04:50 * edit *

carmencさんへ
高校出てから40年以上立ちいろんなことを経験していくうち、純粋だった心が汚れてしまう。
高校生時代の自分が清廉潔白だったとは思えないにしろ、やはり汚れたなと・・・
果敢なくも甘酸っぱい思い出が恋しい年となってます。
中学生時代教育実習に来た女性に恋い焦がれたこともありましたよ。
そんなことも小説として書いてますが、このブログでは未発表だったのか?
それなら折を見てまた書き直そうとも思います。
タイムスリップできたらなと・・・
そんなことばかり考えてます。
拙い読み物を褒めていただき、恐縮です。

freecat2828 #hdScUxTA | URL | 2014/11/07 07:16 * edit *

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